プロトコルアップデート003 — UXの向上 | イーサリアム・ファウンデーションブログ

数ヶ月前、私たちはプロトコルが 3 つの戦略的イニシアチブ（L1 のスケーリング、blob のスケーリング、UX の向上）に新たに注力することを発表しました。以前のL1 のスケーリングとblob のスケーリングに関するアップデートに続き、本稿では私たちの「UX の向上」トラックとそのミッションについて説明します。

個人および機関投資家向けに、イーサリアムエコシステム全体でシームレスかつ安全で、パーミッションレスな体験を提供する。

私たちは、公共のコアなイーサリアム R&D グループという立場から、今後 6〜12 ヶ月において、広範な UX 領域内で相互運用性、および本稿で紹介する関連プロジェクトが最も影響力の大きい機会であると考えています。

短期的な戦略は、相互運用性の基本的な構成要素であり続けると私たちが考える分野、すなわちインテントベースのアーキテクチャと汎用メッセージパッシングに焦点を当てています。両者において、私たちの目標は、明確で測定可能なプロトコルメトリクスに集中し、レイテンシーとコストを削減しつつ、セキュリティとトラストレス性を向上させることです。これらのメトリクスには、オペレーションごとの署名数、インクルージョンまでの時間、高速コンファメーションまでの時間、ファイナリティまでの時間、L2 セトルメントまでの時間が含まれます。

私たちの取り組みは 3 つのストリームに分かれています。

初期化 (Initialisation): インテントをよりモジュール化かつ軽量化し、すべてのチェーン間でシームレスかつ安全に資産を移動するための共有標準を強化します。
加速 (Acceleration): レイテンシーとコストを削減し、インクルージョン、コンファメーション、ファイナリティ、セトルメントを高速化する取り組みを加速します。
最終化 (Finalisation): 最先端のコンセンサス（高速ファイナリティ）と暗号技術（リアルタイム証明を伴う SNARK）を統合し、高速でパーミッションレスなクロスチェーンメッセージングを可能にします。

なぜ相互運用性に焦点を当てるのか？

イーサリアムエコシステムは、私たちの L1 メインネットと、イーサリアムを L1 の境界を超えてパーミッションレスに拡張する多くの L2 で構成されています。これらの拡張はイーサリアムにとって重要なエントリーポイントとスケーリングの機会を提供しますが、同時にイーサリアムの体験とその経済に対する断片化の圧力という、独自の課題ももたらします。

「相互運用性を解決する」とはどういうことか、また相互運用性がどの程度すでに解決済みかについては、多くの潜在的な定義があります。インフラと技術の多くはすでに準備が整っている（または間もなく整う）一方で、これらのソリューションをすべてのユーザーの手に届け、日常の UX にシームレスに組み込むためには、まだいくつかのステップが残っています。

簡潔に言えば、相互運用性を加速するための鍵となる要素は、高速なクロスチェーンメッセージパッシングと標準化を可能にすることに集約されます。現在、メッセージパッシングは遅いセトルメント時間によって部分的にボトルネックとなっています。これらのボトルネックを取り除く作業が続けられている一方で、今日私たちが活用できるインフラがあり、最も一般的なユーザーフローを解決し、イーサリアムエコシステム全体で統一された体験を提供することができます。

それでも、相互運用性はイーサリアムユーザーが直面する唯一の UX 問題ではありません。本稿の最後では、セキュリティとプライバシーに重点を置いた、ユーザー中心の開発のさまざまな側面に取り組む EF の個別のイニシアチブを紹介します。さらに、イーサリアムの UX を向上させるための多くの機会が、私たちのエコシステム内のプロジェクトによって追求され、提供されるでしょう。私たちは彼らの成果を祝い、イーサリアムのコアな特性を強化するために協力を続けていくことを楽しみにしています。

ストリーム 1: 初期化 (Initialisation)

インテントは、クロスチェーンインタラクションの UX を向上させるための一つのメカニズムであり、クロスチェーンの仕組みの複雑さを抽象化し、アクションの結果を明確にします。私たちはインテントを、実行されるべき正確な低レベルのトランザクションを規定することなく、ユーザーがオンチェーンで達成したいことの高レベルな表現と定義します。インテントは宣言的（「この結果が欲しい、その方法は柔軟で構わない」）であるのに対し、トランザクションは指示的（「このコントラクトをこれらのパラメータで呼び出す」）です。

インテントレイヤーは、オーダーフローインターフェース（ウォレット）と、より深い相互運用性インフラストラクチャ（カノニカルまたはプライベートブリッジ）の間に位置します。そのため、最高の UX を提供するウォレットの専門知識と、イーサリアム全体に展開された多くの資産を決済するブリッジの能力の両方を活用する、戦略的に重要な支援ポイントです。

しかし、インテントプロトコルは、ソルバーという仲介者に信頼の前提を導入することが多く、それが検閲のベクトルやプライバシーの問題を生み出す可能性があります。クロスチェーンメッセージングブリッジやイーサリアム相互運用性レイヤー（EIL）のような他のアプローチも、ソルバーへの依存なしに相互運用性を前進させます。これらの取り組みを総合すると、相互運用性のための設計空間が広がります。

プロジェクト #1: オープンインテントフレームワーク

要点: インテントベースのクロスチェーンプロトコルをサポートする中立的なインフラの基盤を築く。

オープンインテントフレームワーク（OIF）は、インテントの各レイヤー（オリジネーション、フルフィルメント、セトルメント、リバランシング）にモジュール式のインフラを提供します。これは拡張可能なフレームワークであり、チェーン間でのユーザーインタラクションをより安全に、より安く、より速く決済するためのさらなる改良の基礎を築きます。オープンインテントフレームワークは、Ethereum Foundation のコアコントリビューターに加え、Across、Arbitrum、Hyperlane、LI.FI、OpenZeppelin、Taiko、Wonderland など多数の協力による取り組みであり、相互運用性に対する統一されつつも差別化されたアプローチへの意義深い一歩です。

OIF は、イーサリアムのエコシステムに存在する L2 のさまざまな要件やユースケースに対応するため、可能な限り軽量でカスタマイズ可能にゼロから構築されました。このモジュール性とカスタマイズ性により、インテントスタックの各部分を簡単に交換でき、信頼の前提やセキュリティ保証が弱い可能性のあるメカニズムを容易に切り替えることができます。OIF は、セキュリティ、検閲耐性、プライバシーを含むセトルメント保証の向上にコミットしています。

オープンインテントフレームワークの本番環境で使用可能なスマートコントラクト実装は、本日アーキテクチャ図と開発者向けドキュメントとともに公開されています。2025 年第 3 四半期を通じて、貢献チームはスマートコントラクトの基盤と標準の最終化、監査の完了、さらにいくつかの検証メカニズムの追加を行っています。2025 年第 4 四半期には、OIF はオープンソースのソルバーとクロスチェーン検証モジュールを完成させる予定です。チームは、設定可能なチェーンサブスクリプション、自動リバランシング機能、および主要なクロスチェーン検証プロトコルをサポートするモジュール式の検証を備えた完全なリファレンスソルバー実装にアクセスできるようになります。新しいチェーンは、ローンチ後すぐに本番ソルバーを展開でき、従来の数ヶ月にわたる統合サイクルを排除できます。

プロジェクト #2: イーサリアム相互運用性レイヤー

要点: トラストレスで検閲耐性のあるトランスポートレイヤーにより、クロス L2 トランザクションを単一チェーンのトランザクションのように感じさせる。

イーサリアム相互運用性レイヤー（EIL）は、CROPSの価値観（検閲耐性、オープンソース、プライバシー、セキュリティ）を妥協することなく、イーサリアムを再び一つのチェーンのように感じさせることに焦点を当てています。

EIL は、ERC-4337 プロトコルの作成者である Chain and Account Abstraction チームによって主導されています。EIL はトラストレスなクロス L2 相互運用レイヤーであり、ユーザーがコントロールを維持し、プライバシーとイーサリアムレベルの検閲耐性を保ちながら、シームレスなマルチチェーントランザクションを可能にします。インテントが宣言的な抽象化（「この結果が欲しい」）であるのに対し、イーサリアム相互運用性レイヤーは、仲介者を信頼せずにトランザクション（「実行すべき正確なコールはこれだ」）による指示的な実行に焦点を当てています。

公開設計ドキュメントは 10 月にリリースされ、詳細は Devconnect で提供される予定です。

プロジェクト #3: 相互運用性標準

要点: クロスチェーン操作のための共通プロトコルにより、スタック全体のユーザーと開発者のフリクション（摩擦）を削減する。

最後に、OIF と EIL の拡大をサポートするために、ユーザーから相互運用性のバックエンドに至るまで統一された設計原則を確立する、多数の標準が設定されます。これらの標準には、ウォレットとアプリの UX を向上させるための相互運用可能なアドレス（ERC-7828 および ERC-7930）、資産統合（ERC-7811）、マルチコール（ERC-5792）、そしてインテント標準（ERC-7683）や共通メッセージングインターフェース（ERC-7786）などの中立的なメッセージパッシングインフラが含まれます。

現在までに、ERC-7683 は Across、Uniswap、LI.FI、OpenZeppelin からの貢献者グループによってレビューされ、改訂されました。主な変更点は、複数のインテントオリジネーションフロー、特にリソースロックやフィラーへの直接転送といった新しいフローをサポートするための、より高レベルなインターフェースの再設計です。柔軟性とモジュール性の精神に基づき、改訂された標準には、さまざまなオークションメカニズム（例：ダッチオークション、先着順）も含まれ、マルチチェーン入力や相互運用可能なアドレスといった他のオープンソースイニシアチブとの互換性も考慮されます。

ストリーム 2: 加速 (Acceleration)

ストリーム 1 が中立で、ユーザー中心で、安全な相互運用性スタックに必要な基本サービスを構築するのに対し、ストリーム 2 はネットワークのすべてのノードとリンクの速度制限を引き上げることを目指します。私たちは、以下のセクションで詳述する 4 つの主要なメトリクスに焦点を当てています：L1 インクルージョンまでの時間、L1 強固なコンファメーションまでの時間、L1 ファイナリティまでの時間、および L2 セトルメントまでの時間。

プロジェクト #4: 高速 L1 コンファメーションルール

要点: 完全なファイナリティを 13〜19 分待つ代わりに、15〜30 秒で高速かつ強固な L1 コンファメーションを受け取る。

より高速なコンファメーション時間は、イーサリアムエコシステム全体でより良い相互運用性のための最大の要件の一つとして常に挙げられています。イーサリアムのプルーフ・オブ・ステークの仕組みでは、アテスターが各スロットでチェーンの現在の状態に投票し、完全なファイナリティは何スロットも後に確定します。しかし、証明可能な安全性を持つ高速なコンファメーションを得る方法はすでに存在しますが、現時点ではあまり知られておらず、利用可能でもありません。

高速コンファメーションルールの概要：アテスターの累積投票を利用して、はるかに早い時点でより低い（しかし依然として強力な）確認度を提供し、完全なファイナリティは後で（今日と全く同じ方法で）得られます。十分に特定された攻撃者のモデルの下では、高速コンファメーションルールは証明可能な安全性を提供し、そうでなければ完全なファイナリティに依存するメカニズムにとって魅力的な選択肢となります。私たちはこの高速コンファメーションルールをすべてのコンセンサスクライアントに実装し、ユーザーのレイテンシーを減少させることに関心のあるプロジェクトと協力して、そのエンドポイントを統合します。

現在、Roberto Saltini と Mikhail Kalinin（Consensys）が高速コンファメーションルールの仕様とその正しさの証明を主導しています。TxRx チーム（Consensys）が Teku でこのルールを実装しており、Terence Tsao（Offchain Labs）が Prysm の初期実装を、Harsh Pratap Singh（EPF Fellow）が Lighthouse の実装に取り組んでいます。仕様のさらなる簡素化と実装へのより簡単なパスが期待されるため、2026 年第 1 四半期にはすべてのコンセンサスレイヤークライアントで高速コンファメーションルールが利用可能になることを目指し、パートナープロジェクトと統合を進めていきます。

プロジェクト #5: L1 スロットの短縮

要点: L1 スロット時間をできるだけ早く短縮するための研究とエンジニアリングの基礎作業を行う。

L1 スロットの短縮により、大幅な UX 改善が得られます。私たちはまず、スロット時間を 12 秒から 6 秒へと 2 倍短縮することを目標としています。スロット時間を半減させることは、L1 ユーザーにとって L1 インクルージョンまでの時間を半減させるだけでなく、これらのコンファメーションルールを利用するユーザーにとって強固なコンファメーションまでの時間とファイナリティまでの時間をさらに半減させます。これにより、相互運用性プロトコルのユーザーは、より速いセトルメント、送金中の資本の削減、手数料とレイテンシーの低減を享受でき、安全な L1 セトルメントを利用するインセンティブも高まります。

このプロジェクトには複数のワークストリームが必要です：ネットワークパフォーマンスと中央集権化圧力に関する堅牢なデータ分析（現在、Maria Inês Silva、Sam Calder-Masson、Toni Wahrstätter が関与）、コンセンサスおよび実行レイヤーの変更仕様（Dankrad Feist、Justin Traglia、Milos Stankovic が関与）、クライアント実装（Milos Stankovic と Jihoon Song による初期作業）。この作業の多くは、EIP-7732 への移行や、組み込み型のプロポーザー・ビルダー分離などのスロット再構築の取り組みとは独立しています。

プロジェクト #6: L2 セトルメントの短縮

要点: ロールアップから資産を移動する際のレイテンシーを削減することで、リバランシングコストが減少し、インテントのサービス品質が向上する。

オプティミスティックロールアップは、公開されたロールアップの状態に異議を唱えるための十分な長さのチャレンジ期間が開かれた後、約 7 日でセトルメントします。より短い出金期間は、ロールアップからの資産移動を高速化し、ソルバーのリバランシングコスト、すなわちインテントプロトコルユーザーのコストを低減させます。これは、インテントがより大きなボリュームをより安い手数料で決済するための重要なレバーです。この分野では、多くの L2 および ZKEVM チームの努力のおかげで、すでに多くの進展が見られます。私たちは、ZK ベースのリアルタイム証明の実装や、安全な 2-out-of-3 の高速セトルメントメカニズムへの移行に関心のあるオプティミスティックロールアップを支援していきます。

ストリーム 3: 最終化 (Finalisation)

イーサリアムにおける相互運用性の最後のフロンティアは、2 つの技術、すなわちリアルタイム証明と高速ファイナリティによって達成されます。私たちの目標は、それぞれのタイムラインを前倒しにするための研究とプロトタイプのイニシアチブを加速することです。このストリームのオープンエンドな性質を強調するため、ここでのプロジェクトを「探求（Explorations）」と呼びます。

探求 #1: 相互運用性の SNARK 化

すべてのプロトコル活動は、広範な利用に向けた SNARK の加速を考慮に入れなければなりません。例えば、「L1 のスケーリング」トラックでは、この技術をイーサリアムプロトコルのコアに段階的に統合するための初期作業を計画しています。同様に、今日、あらゆるものの SNARK 化を無視することは不可能であり、特に相互運用性ソリューションに関連する分野ではそれが顕著です。

堅牢なインテントベースのクロスチェーン UX アプローチにより、目標はこれらのシステムのバックエンドを加速・強化し続け、摩擦が最も少ない状態に到達することです。高速なセトルメントは高速な流動性リバランシングを可能にし、インテントユーザーのコストを削減します。そして、コストとレイテンシーの削減を超えて、SNARK 化は資産発行、ブリッジプリミティブ、クロスチェーンプログラマビリティの地図を塗り替え、特にL1 との同期的コンポーザビリティなどを可能にするポテンシャルを秘めていると私たちは信じています。この革命の先を行くことで、私たちはネットワークを望む未来へと導くコントロールを手にすることができます。

プロジェクト#6 で説明した高速 L2 セトルメントメカニズムのいくつかの SNARK ベースのバージョンでは、オプティミスティックロールアップがその状態がセトルメントされたと見なせる「高速ルート」を解放する可能性があります。しかし、この高速ルートをパーミッションレスに取得し、それに対して「zkSettle」することも可能です。特に、この形式のセトルメントは、オープンインテントフレームワーク（プロジェクト#1）を通じて利用可能なメカニズムとして導入される可能性があり、最も堅牢な形式のインテントセトルメントと最大限のユーザー保護を保証します。

探求 #2: L1 ファイナリティの高速化

私たちは、今日の 13〜19 分から秒単位のオーダーへとファイナリティを前進させるためのあらゆる道を模索することを提案します。第一に、プロジェクト#5 で説明したスロットの短縮はファイナリティ時間を半減させ、7〜10 分になります。第二に、ビーコンチェーンの変更により、さらに 1〜2 分に短縮できる可能性があります。最後に、現在のコンセンサスプロトコルである Gasper をよりリーンで高速なプロトコルに置き換えることで、さらに桁違いの改善がもたらされ、目標とするファイナリティは 10 秒未満で得られるようになります。

EF プロトコルコンセンサスチームは、堅牢で、高性能で、分散化されたコンセンサスプロトコルのための意思決定ツリーを明らかにするいくつかのプロジェクトに取り組んでいます。3-slot-finality (3SF)は、イーサリアムのようなプロトコルに特有の組み合わせである、動的な可用性で強力な安全性を得る、よく理解されたプロトコルです。Kudzu、Hydrangea、Alpenglow といった新しいクラスのプロトコルの探求は、3SF よりも低レイテンシーで高スループットの改善機会を明らかにしますが、イーサリアムの独自の特性に合わせて設計される必要があります。

プロトコルアップデート003 — UXの向上

Barnabé Monnot, Josh Rudolfが2025年8月29日に投稿